東京都心から南へ約930キロの「小笠原諸島」の中に「旧・西之島」がありました。元々は、面積0.07平方km、南北650m、東西200m、標高25mの細長い小さな無人の火山島でした。ところが、昭和48年(1973)5月に、この旧・西之島の西400mの海底で爆発的大噴火が生じ、溶岩流や噴出物が大量に堆積して新たな陸地が生じて元々あった旧・西之島をのみ込み、「新・西之島」となりました。その後も噴火を繰り返し、2022年現在、面積4平方km、標高207mに成長し、噴火前のおよそ10倍の大きさになっています。島の地表は溶岩や火山灰に覆い尽くされ、旧島の動植物の生態系は完全にリセットされました。地殻変動で新しい陸地が誕生した後、生物はどこから来て、生態系はどのように形成されるのか。一番近い島が約130km離れた「父島」なので、そこからの影響は考えにくいと言います。ですから、絶海の孤島として誕生した新・西之島は、動植物が定着する過程を実際に観察することが可能な世界で唯一の場所となったのです。一般的に生物が島に来る方法は「1.鳥に運ばれる」「2.流木などとともに漂着」「3.風で運ばれる」の三つのパターンがあります。最初に植物が生え、次に植物を食べる昆虫が生息し、虫を食物にする鳥が定着すると考えられていました。環境省の現地調査が2016年からたびたび行われた結果、植物がない溶岩台地で、植物を食べる昆虫はおらず、鳥の死骸を食べる「ハサミムシ」が発見されました。昆虫が鳥の死骸を分解して土に養分を供給し、将来的には植物の定着も見込まれます。つまり、従来の通説とは逆に、最初に鳥、続いて昆虫、次いで植物という順番が考えられるのです。この経過を人類史上初めて科学的に観察出来るのです。それは数十年単位の息の長い観察となるでしょう。楽しみです。(2024.5/1) |